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<時間を想うようになった>
ふとしたことで、自分は変わったなと気付くことがある。

気の置けない仲間と今夜は外で食事をしようかという話になったとき、それじゃひとつ目新しい店を開拓してみようかという気持ちがすっと頭をもたげるのか、あるいはすでに自分の中で評価が定まっている店のいくつかがほぼ自動的に頭の中でルーレットのように回り出すのか。自分はたとえ街中まで足を伸ばす手間をかけてでも、そして結果的にかなり失望を味わうかもしれないというそれなりのリスクを負ってでも、未知への挑戦を楽しむそんなタイプだったはずだ。それが、料理別にあるいは目的別に、後悔のない店のリストがほぼ完成してしまい、新たな発見の興奮よりも失敗のない確実な食事と時間を確保することを優先するようになってきている。
少し長めに休暇がとれるなら、旅に出たい。自分はパッケージツアーにリストされ、ポストカードの写真などで誰でも知っているそんなスポットライトの眩しい場所ではなく、映画などの背景でふと見かけた、あるいは小説などで読みかじった、さりげない日常がなぜか印象に残る見知らぬ土地へ、孤独な異邦人を感じるために出かけたくなるそんなタイプだったはずだ。それが、旅先を考えるとき“そうだ、京都へ行こう”というあの妙に気の利いたJRのコピーがまず頭をよぎるようになり、“西海岸”のどこにしようかとよく知ったいくつかのポイントがフラッシュバックし、それらを結ぶルートが次々とシャッフルされている。憧れていたはずの見知らぬ土地に佇む異邦人たる自分の姿をイメージするよりも、慣れ親しんだしかし色あせることのない感動が約束されたそんな場所に向かおうとすることに抵抗を感じなくなってきている。
病院での勤務医時代はその日その日で、いやもっといえば瞬間瞬間で“must”が目まぐるしく入れ替わり、時間をコントロールすることなど不可能だった。自分はそんな刹那的に過ぎゆく日々、ただ時間に追われているだけの毎日に何の疑問も感じないそんなタイプだったはずだ。それが、1週間の生活がスケジュール管理され、週のその日その日にやるべきことが固定するようになり、朝起きてから仕事を終え自分の部屋に戻るまでの一日の間に行うべき一連の行程も頭の中できっちり想定されているようになってきた。そして、何よりそうしたto doリストを着実にこなしていくことで、夜へのあるいは休日への時間的侵襲を可及的に避けたいという強い意識を持つようになった。思いつきでの突発的行動は冷静に自制するようになり、他からの干渉には露骨に不愉快そうな態度をとることで時間に対する戦闘モードにあることを伝えようとする。いやなやつだなという印象を与えているだろうと思うと少々気が引けるが、止むを得ない。

こうした自分の変化に気付いたとき、自分は守りに入ってきているなと思う。行うべきことをすべて済ませてからの時間は真の自由時間である。人にはそんななんの束縛もない自分自身の時間が必要であると知った。勤務医時代には束縛から解放された時間などという概念は存在せず、それがこれほど重要な意味を持つということを知る機会はなかった。ただ脇目もふらず競走馬のように走り続けていたように思う。そして、走っていること自体に意義があり、自分にとって意味があるときには脇を見る必要もなかったのだと思う。時が経て環境が変わり、束縛から解き放された時間の貴重さに気付いたとき、そもそもの時間の使い方に慎重になるということは当然の成り行きかもしれない。後悔のない時間を確保するために不確実性を内包したことに時間を賭すことをやめ、自分自身の時間を確保するためにすべきことの管理において頑なになる、そんな守りの体制に移行していくことは、人生における自然の流れなのだろう。
気に入っているレストランは、季節に合わせたメニューを提供することでいつも新鮮な魅力を維持している、心に残る旅先も訪れる者のそのときの気持ちを映して訪れるたびに新たな発見と感動を与えてくれる。そこには後悔のない時間が約束されており、それだからからこそさらなる時間の演出を楽しもうとする余裕と意欲が湧いてくる。同様に、やるべきことはきっちりやっているという自負なくして、ほんとうの意味で束縛から開放された時間を得ることは出来ない。自分がやるべきことをより深めることで確かな進化を続けている、そんな認識があってはじめて自分自身の時間は意味を持つようになり、そして心地よい時間となる。
さて、当クリニックもこの8月1日をもってオープン以来5年目に突入する。時の過ぎるのが本当に速いと感じる。看板や標識などはわずかしか出していない当クリニックにとってホームページは重要な情報発信源である。今回これをリニューアルした。同時に気持も一新した思いがしている。

平成25年7月